「犬バカと呼んで」クリスの出産(#038)
新緑の5月。
予定日が過ぎてもなかなか生みそうにない。
部屋のあちこちでガリガリ巣作りはしているようだが、すぐやめてしまい、一向に生む気配がない。
今か今かと待ち続け、結局「今日もダメか。」という日が何日か過ぎた。
5月3日、その日も朝からソファや居間の隅を片っ端から掘っている。
せっかく用意した産箱には見向きもしない。
おい、おい、わざわざ友人宅から重たい思いをして借りてきたんだから、そこで掘ってよね。
食欲もだんだん落ちてきた。
かかりつけの先生も「今日あたりでしょう。」とおっしゃっていたので、こちらも気合をいれて遅くまで待っていたのだが、夜十時を過ぎると、自分から寝室にあがってさっさと寝てしまった。
「今日もダメだったか。」仕方なく私もベッドに入った。
ところが夜中にまた絨毯を掘る音がする。
「やっと始まったかな。」と起きてみると、クリスは私の顔をチラと見てやめてしまう。
空振りか。
そして又寝ると、ガリガリガリガリ。
起きるとやめる。
こんなことを何度も繰り返しているうちに静かになった。
クリスが私の枕元で横になっている。
これでやっと眠れると思って眠りに落ちたその直後だった。
「キュウキュウ」
「うっそ~!」
飛び起きて電気を点けると、私の枕元で寝ているクリスの足の間に白黒のかたまりが動いている。
突然起こされた私はアドレナリンが大量に分泌され、心臓のバクバクが止まらない。
とにかく落ち着かなければ!
つづく
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